incurable

母の研究室に、来ていたインドネシアからの留学生が、
先日帰国した。


彼女は27歳。
同じくインドネシア人の現在、博士課程に進んでいる夫と
2歳になる娘がいる。
彼女自身、今年度、修士課程を卒業し、
学費を出してくれている本国の企業の研究員として、
前途有望な人生が待っている。

はずだった。




今年の春ごろ、乳がんが発見され、
その時点で全身に転移しており、
余命半年という宣告をされたそうだ。



テレビドラマでよくある話だが、
現実でも、いたるところで起る、ありふれた不幸の一つ。



27歳という若さ。将来有望な学歴。同じく優秀な夫と、幼い愛娘。

最初は

「curableだから」

と強気だった彼女も、

「もっと早く、見つけていれば・・・」

母が見舞いにいったとき、周りをはばからず、そう悔し泣きしたそうだ。



周りの人間は、必ず来る別れの日に、自分が負うダメージを少しでも減らす、
そんな自己防衛の為に、今のうちからショックを小出しにして心の準備をしている。
一見滑稽だが、極めて現実的で悲しい話だ。


喉にも転移しているため、食事はまったく食べられず、ずっと点滴をうっている。
にも関わらず、日本を離れ、きつい旅程に耐えて、インドネシアに戻る決断をしたのは、
残された時間を家族。取り分けまだ物心もついていないような、幼い娘の為に使おうと決めたからなのだろう。


国家、人類、地球の為に。
ダメ人間の自分と彼女。どっちがより長く生き残るべきかは明白だ。
無責任な事を言うつもりはないが、変わってあげたいと、少なからず思ってしまう。



人生、この先、何が起るかわからない。

今、できること、やりたいことを、出し惜しみせず、やっていくしかない。

1分1秒も無駄にはできない。